
キャリア形成とは、職業経験を通して職業能力を形成していくことです。キャリア(仕事上の経験)を積みながら、個人の仕事に関する技術やスキル・能力を伸ばしていくプロセスを、キャリア形成と呼びます。
終身雇用制度が過去のものとなり、大企業であってもいつ倒産するかわからない不安定な社会においては、キャリア形成によって能力開発を行う重要性が増しています。
しかしながら、「キャリア形成とは具体的に何なのか、いまひとつ理解できない」と感じている人が多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、あらゆる社会人にとって欠かせないといっても過言ではない「キャリア形成」について、詳しく解説します。
この記事のポイント
- キャリア形成の基礎知識が身に付く
- キャリア形成がなぜ重要なのか理解できる
- キャリア形成のやり方や失敗しないための注意点がわかる
この解説を最後までお読みいただければ、あなたは「キャリア形成とは何なのか」はもちろん、自分自身のキャリア形成のために何をすべきかまで理解できます。
キャリア形成を見据えて日々の業務に取り組むことで、転職にも強い人材へと成長できるはずです。
ではさっそく「キャリア形成」について解説します。
1. キャリア形成とは

まずはキャリア形成の基礎知識から見ていきましょう。
1-1. キャリア形成とは職務経験を通して職業能力を形成していくこと
キャリア形成とは、簡単にいえば職務経験を通して職業能力を形成していくことです。
正式な定義としては、国(厚生労働省)の資料に以下のとおり記載されています。
○ 「キャリア」とは、一般に「経歴」、「経験」、「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念として捉えられる。
○ 「キャリア形成」とは、このような「キャリア」の概念を前提として、個人が職業能力を作り上げていくこと、すなわち、「関連した職務経験の連鎖を通して職業能力を形成していくこと」と捉えることが適当と考えられる。
出典:厚生労働省
つまり、継続的に続いていくキャリア(仕事の経歴や経験)を通して、仕事を遂行するために必要な個人の能力を伸ばすことがキャリア形成であるといえます。
ポイントとしては、次の2点が挙げられます。
- 仕事を通して能力を形成すること(独学や学校で学ぶことは含まれない)
- 個人の能力を形成すること(企業の組織やチーム単位の能力ではない)
1-2. キャリア形成の目的
個人の側から見たキャリア形成の目的を一言でいえば「職業を通した自己実現」といえます。
前述の資料には以下のとおり記載されています。
「キャリア形成」のプロセスを、個人の側から観ると、動機、価値観、能力を自ら問いながら、職業を通して自己実現を図っていくプロセスとして考えられる。
出典:厚生労働省
つまり、単に職業能力(職業に必要な能力)を身に付けるだけでなく、キャリア形成のプロセスを通して「なりたい自分になる」ことが、キャリア形成の目的なのです。
1-3. 補足:求人の募集要項に記載されている“キャリア形成”の意味
この記事をお読みいただいている方のなかには、
「企業の求人の募集要項に『キャリア形成』と書かれているのを見て、キャリア形成って何だろう?と思った」
という方もいるかもしれません。
求人票に記載される「キャリア形成」は、応募者の上限年齢を定める際によく使われる言葉です。
というのは、本来であれば法律(雇用対策法)によって、求人の募集や採用に年齢制限を設けることはできません。しかし、例外事由に該当する場合は年齢制限を行うことができるという背景があります。
▼ 【例外事由の6項目】 雇用対策法施行規則第1条の3第1項
1号 定年年齢を上限として、当該上限年齢未満の労働者を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
2号 労働基準法等法令の規定により年齢制限が設けられている場合
3号のイ 長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等を期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
3号のロ 技能・ノウハウの継承の観点から、特定の職種において労働者数が相当程度少ない特定の年齢層に限定し、かつ、期間の定めのない労働契約の対象として募集・採用する場合
3号のハ 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請がある場合
3号のニ 60歳以上の高年齢者又は特定の年齢層の雇用を促進する施策(国の施策を活用しようとする場合に限る。)の対象となる者に限定して募集・採用する場合
出典:東京労働局
キャリア形成にかかわる例外事由は「3号のイ」になります。

出典:東京労働局
つまり、求人の募集要項に「キャリア形成」と書かれている場合、多くは「上限年齢を定めているが、例外事由に当てはまるため、法律的に問題がない」ことを明示するために記載されているのです。
よって、求人内容に直結しているというよりは、便宜上書かれているケースが多いことを覚えておきましょう。
2. キャリア形成が重要な理由

現代は、キャリア形成の重要性が増している社会といわれています。その理由を3つ、解説しましょう。
2-1. 長期の安定的な雇用が保障されない時代へと変化している
1つめの理由は「長期の安定的な雇用が保障されない時代へと変化している」ためです。
かつては、終身雇用を前提とした年功序列型賃金制度を採用する企業が多くありましたが、現在では半数以下に減っています。
長期安定雇用が保障されているなかでは、職業生活の在り方は基本的に企業まかせでした。個々人の能力開発よりも、集団としての管理に重きが置かれていたのです。
しかし、終身雇用を採用しない企業が増え続けている現在では、集団的なシステムから個人に配慮したシステムへと企業体制が変化しつつあります。
加えて、企業間競争が激化し、大企業といえども倒産のリスクを避けられない現状があります。誰しも、いつ突然失業するかわかりません。
以上の背景より、個々人がキャリア形成を行い、自らの能力を高めていくことが欠かせなくなっています。
個人がそれぞれにキャリア形成を通して能力を身に付けなければ、生き延びていくことが難しい社会になりつつあるのです。
2-2. キャリア形成なしに満足できる転職は難しい
2つめの理由は「キャリア形成なしに満足できる転職は難しい」ためです。
中途採用の際には、経歴・職歴・職業能力が重視されます。言い換えれば、どんなキャリア形成ができているかによって、転職できる企業の選択肢が変わってくるわけです。
「今は転職する気がない」という人でも、変化の激しい社会においては、いつ転職する必要性に迫られるかわかりません。
いざ転職するというとき、できるだけ良い条件での内定を勝ち取るためには、キャリア形成をしておくことが重要といえます。
2-3. 多様で柔軟な働き方を実現するためにはキャリア形成が必要
3つめの理由は「多様で柔軟な働き方を実現するためにはキャリア形成が必要」です。
国が政策としてワークライフバランスの実現を推奨していることや、2020年以降の新型コロナウイルスの影響などを背景に、多様で柔軟な働き方をする人が増えています。
テレワーク・時短勤務・裁量労働制など、メディアも新しい働き方を歓迎的に報道するのを見掛けることが多くなりました。
しかしながら一方では、自由な働き方で今までどおりに収入を得ることができる人は、高い職業能力を兼ね備えている人に限られているという現実があります。
多様で柔軟な働き方を実現するためには、キャリア形成が不可欠なのです。
自分のライフスタイルに合わせた自由な働き方を目指す人ほど、キャリア形成に取り組むべきといえるでしょう。
3. キャリア形成のやり方

では、具体的にキャリア形成はどのようにすれば良いのでしょうか。
最も良い方法のひとつは、社員のキャリア形成に熱心な会社に就職をし、キャリア研修やキャリア形成支援を受けることといえます。
キャリア形成に熱心な会社は、例えば東洋経済の『「社員のキャリア形成に熱心な会社」TOP150社』などで公開されています。
しかしながら実際には、「自分の会社では、そんな研修や支援は行われていない」という人が大多数ではないでしょうか。
そこで、個人でキャリア形成に取り組むやり方をご紹介します。
3-1. OS・アプリの2分野の力を身に付ける
まず押さえておきたいのが【OS】【アプリ】の2分野の力を身に付けるという考え方です。
出典:経済産業省
【OS】とは、キャリア意識・マインド・社会人基礎力のことで、社会人としての共通能力を指します。これは、どんな業界・職種で働いていても共通して必要な、ベースとなる力と考えましょう。
【アプリ】とは、業界や職種の特性に応じた能力のことで、専門スキルがこれにあたります。内容は仕事によって異なり、絶えずアップデートして磨き続けることが大切です。
3-2. 社会人基礎力とは何か
ここで、【OS】にある「社会人基礎力って何?」と思った方もいるかもしれません。
社会人基礎力とは具体的には、考え抜く力(シンキング)・チームで働く力(チームワーク)・前に踏み出す力(アクション)となります。
出典:経済産業省
あなた自身を振り返ってみて、これらのスキルが満遍なく身に付いているといえるでしょうか。
不足している部分があれば、日々の業務での実践を通して、強化していきましょう。そのプロセスが、キャリア形成の実践となります。
例えば、「傾聴力」が不足していると思うのであれば、今日から部下や後輩の言葉を傾聴するように努めましょう。
あるいは、「主体性」が不足している場合には、上司などに促される前に、常に自分の意志や判断に基づいて前向きに業務に取り組むように態度を改めていきます。
3-3. 専門スキルの磨き方
次に【アプリ】にあたる専門スキルの磨き方ですが、これはあなたが属している業界や職種によって、大きく変わってきます。
共通することは、「ココまででいい」と立ち止まることなく、常に新しいスキルを吸収しアップデートし続けていくことです。
そのために経験すべき業務やプロジェクトには、自ら手を挙げて参加し、自分自身の成長につなげていきましょう。
まだ身に付けていない専門スキルがあれば、それを学ぶために役立つ部署への異動を希望することも有効です。
外部機関のスキルアップセミナーや研修についても、会社サイドに交渉して、できるだけ受講していくと良いでしょう。
4. キャリア形成で失敗しないための注意点

キャリア形成で失敗しないためには、押さえておきたい注意点が在ります。2つ、ご紹介しましょう。
4-1. キャリアビジョンを持つ
1つめの注意点は「キャリアビジョンを持つ」ことです。
特に、「どんな風に専門スキルを磨いていくか」という点においては、「どんな自分になりたいか」という自分のキャリアビジョンに沿ってキャリア形成をしていくことが重要になります。
自分のビジョンや目指す場所が明確になっていないままキャリア形成に取り組むと、キャリア形成が非効率的になる危険があります。
さらに、キャリアビジョンがないと、キャリア形成のプロセスでやりがいを感じにくくなり、意欲を持って取り組みにくくなるというマイナス面もあります。
キャリア形成を行うときには、同時にキャリアビジョンを持つようにしましょう。キャリアビジョンについて詳しくは以下の記事をご覧ください。
キャリアビジョンとは?描く手順と面接を成功させる答え方・注意点
4-2. 社外で通用するスキルを身に付ける
2つめの注意点は「社外で通用するスキルを身に付ける」ことです。
キャリア形成においては、“たとえ急に失職することになっても、すぐに転職を決めて仕事を継続できる力をつける”ことをイメージしましょう。
社内特有のスキルを身に付けることも実務上は大切ですが、あなた自身にとってより有益なキャリア形成という意味では、社外で通用するスキルを身に付けることも忘れないでください。
どこにいっても通用するスキルを身に付けることで、転職時に武器になるキャリア形成を目指していきましょう。
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転職に役立つスキル年代別一覧!20代・30代・40代の必要スキルとは?
5. 今後の自分のキャリア形成のアドバイスが欲しいときの相談先

キャリア形成は、仕事を通して能力を伸ばしていくことが基本となります。
現在所属している会社がキャリア形成に熱心ではない場合や、転職を考えている場合には、相談相手がほしいところです。
今後のキャリア形成のアドバイスが欲しいときの相談先をご紹介します。
5-1. キャリアアドバイザー
まずおすすめの相談先は「キャリアアドバイザー」です。
キャリアアドバイザーは、転職エージェント会社などに所属していて、相談者の転職に関するアドバイスを行い、その人に合った企業を紹介して、サポートを行う役割を担います。
転職を考えている人であれば、無料でサービスを受けられるのが大きなメリットです。
転職エージェント会社は求人企業側から収益を得ているため、求職者側(転職したい個人)は無料で利用できます。
まずは登録だけでもしてみると良いでしょう。
▼ キャリアドバイザーに相談できる転職エージェント
| 名称 | 特徴 |
| リクルートエージェント | 業界最大手の転職エージェントでキャリアアドバイザーから応募書類の書き方や面接対策などのアドバイスを受けられる |
| マイナビエージェント | 20代の支持率が高い転職エージェントで第二新卒の転職や初めての転職におすすめ |
| doda | 大手・優良企業を中心に豊富な求人情報から最適な求人を求人検索でき転職エージェントサービスも展開している |
5-2. キャリアコンサルタント
次におすすめの相談先は「キャリアコンサルタント」です。
キャリアコンサルタントは国家資格で、キャリア形成や職業選択に関する相談や助言を行う専門職です。
キャリア形成について悩みがあれば、相談する相手として適任といえます。
キャリアコンサルタントに相談するためには、キャリアコンサルタントが行っているキャリアカウンセリング(キャリア相談)を受ける方法があります。
費用はキャリアコンサルタントによってまちまちですが、相場は1時間5,000円〜20,000円程度です。
国のキャリアコンサルタント名簿に登録しているキャリアコンサルタントは、「キャリアコンサルタント検索」にて検索できます。

居住地や対応可能業務などの条件を設定して検索できますので、利用してみましょう。
6. まとめ
キャリア形成とは、職務経験を通してキャリア形成とは職務経験を通して職業能力を形成していくことです。キャリア形成の目的は、究極的には「自己実現」といえます。
一方、求人の募集要項によく「キャリア形成」という言葉が記載されているのを見掛けるかもしれません。こちらは求人の上限年齢を定めることを法的にクリアする目的で記載されるケースが多いものです。
キャリア形成が重要な理由としては、次の3点が挙げられます。
- 長期の安定的な雇用が保障されない時代へと変化している
- キャリア形成なしに満足できる転職は難しい
- 多様で柔軟な働き方を実現するためにはキャリア形成が必要
キャリア形成のやり方としては、能力を【OS(基礎力)】【アプリ(専門スキル)】の2つに分け、それぞれの能力を身に付けるように意識しましょう。
キャリア形成で失敗しないための注意点としては、キャリアビジョンを持つこと、社外で通用するスキルを身に付けることが挙げられます。
キャリア形成のアドバイスが欲しいときの相談先としては、キャリアアドバイザーやキャリアコンサルタントがおすすめです。
ぜひ、今後のキャリア形成を見据えて、現在の業務に取り組んでいきましょう。
なお、キャリアを積み重ねてキャリアアップを図りたい方には、以下の記事がおすすめです。ぜひ続けてご覧ください。





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